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東京地方裁判所 昭和58年(ワ)10911号 判決 1984年4月20日

原告 ユニオンクレジット株式会社

右代表者代表取締役 西角井正彦

右訴訟代理人弁護士 中島晧

同 二瓶修

同 久保貢

同 荒井俊通

被告 渡辺春樹

主文

一、被告は、原告に対し、金七〇八万一一五二円及び内金三四九万五一一八円に対する昭和五八年四月六日から、内金三五八万六〇三四円に対する昭和五八年五月七日から各支払ずみまで日歩五銭の割合による金員を支払え。

二、訴訟費用は被告の負担とする。

三、この判決は仮に執行することができる。

事実

第一、当事者の求めた裁判

一、請求の趣旨

主文同旨

第二、当事者の主張

一、請求原因

1. 被告は原告との間で、昭和五七年三月一日、被告が左記ユニオンカード会員規約に基づく原告の個人会員(以下「会員」という。)となる旨の合意をした。

(一)  会員は、ユニオンカード加盟店にカードを呈示し、所定の伝票に署名することによって即時に代金を支払うことなく物品の購入・サービスの提供を受けることができる。

(二)  原告は会員のカード利用により加盟店の取得した代金債権を譲り受けることとし、右債権譲渡について会員は予め承諾する。

(三)  会員は、原告が毎月一〇日までに加盟店から譲り受けた代金債権を翌月五日限り支払う。

(四)  会員がカードを紛失したり、盗難によって失った場合には、会員は、速かに原告にその旨告知するとともに所轄の警察署に届け出る。カードの紛失、盗難により、カードを他人に不正使用された場合には、その結果について会員が責任を負う。但し、会員に故意又は重大な過失がない限り、届出後三二日以降は会員は責任を負わない。

(五)  遅延損害金 日歩五銭

2. 被告は、右1の約定に基づき、カードを利用して、別紙利用明細一覧表記載のとおり物品を購入し、サービスの提供を受け、又は他人に自己のカードを利用され、その者に右のとおりの物品の購入、サービス提供の享受をされ、その代金総額は七〇八万一一五二円となったところ、原告は、別紙利用明細一覧表債権譲受日欄記載の各日時にそれぞれ右の各代金債権を加盟店から譲り受けた。

よって、原告は、被告に対し、右1の契約に基づき、右代金七〇八万一一五二円及び内金三四九万五一一八円に対する弁済期の翌日である昭和五八年四月六日から、内金三五八万六〇三四円に対する弁済期の翌日である昭和五八年五月七日から各支払ずみまでいずれも日歩五銭の割合による遅延損害金を支払うことを求める。

二、請求原因に対する認否

請求原因2の事実のうち被告がカードを利用して、別紙明細一覧表記載のとおり物品を購入し、サービスの提供を受けたことは否認する。被告は、原告から交付を受けた前記カードを被告の兄やその友人に勝手に使用されてしまったものである。

三、被告の主張

請求原因1の契約においては、カードの利用限度額は五〇万円とされていたし、契約者の自筆による署名がなければカードを使用できないとされていた。

四、被告の主張に対する原告の反論

被告主張のカード利用限度額は四〇万円であるが、キヤッシングサービスについては格別、加盟店における物品の購入やサービスの享受については、本件のように短期間に多額の利用をした場合には、原告においてこれに対処する手段がない。また、カードは、会員の自筆でなければ使用できないこととなっており、カード裏面には会員の署名がされており、加盟店において署名を照合することになっているけれど、日本文字の署名につき完全な照合は極めて困難であることに鑑みても、仮に本件の場合の署名が被告の自筆でないとしても、そのことから直ちに被告が支払義務を免れることにはならない。

第三、証拠<省略>

理由

弁論の全趣旨によって真正に成立したものと認められる甲第九三号証の一、二によれば、請求原因1の事実が認められ、甲第一ないし第九二号証と弁論の全趣旨を総合すると、被告は、被告の兄に前記カードを預けたところ、被告の兄やその友人が被告であると称して別紙利用明細一覧表記載のとおりカードを利用して物品を購入し、サービスの提供を受け、その代金総額が七〇八万一一五二円となったとの事実及び原告が別紙利用明細一覧表債権譲受日欄記載の各日時に右の各代金債権を加盟店から譲り受けたとの事実が認められる。ところで、前叙のとおり、請求原因1の契約には、会員がカードを紛失したり、盗難によって失った場合には、会員は、速かに原告にその旨告知するとともに所轄の警察署に届け出る、カードの紛失、盗難により、カードを他人に不正使用された場合には、その結果について会員が責任を負う、但し、会員に故意又は重大な過失がない限り、届出後三二日以降は会員は責任を負わない旨の約定(請求原因1(四)の約定)が存するところ、右約定を合理的に解釈すれば、右契約には、会員がカードを他人に預け、その結果、これが不正使用された場合には会員がその結果について責任を負う旨の約定も含まれているというべきであるから、結局、被告は、前記認定の被告の兄やその友人によるカードを利用しての別紙利用明細一覧表記載のとおりの物品購入、サービス提供の享受についても責任を負わなければならないものといわなければならない。

被告は、請求原因1の契約においては、カードの利用限度額が五〇万円とされており、また契約者の自筆による署名がなければカードを使用できないとされていた旨主張するが、右の利用限度額が定められているということは、そのことのみによっては原告の本訴請求の範囲を右利用限度額の範囲内に減縮すべき理由とはなりえないものというべく、また契約者の自筆によらなければカードを使用できないとされているとの点も、日本文字による署名の照合を大量かつ迅速な商取引の過程で行うことは極めて困難であることが経験則上認められることに鑑みれば、やはり、被告の原告に対する前記支払義務の免除の理由とはなりえないものというべきである。

以上によれば、原告の本訴請求はすべて理由があるからこれを認容し、訴訟費用の負担につき民訴法八九条を、仮執行の宣言につき同法一九六条一項を、それぞれ適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 窪田正彦)

<以下省略>

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